INSPIRATION OF THE YEAR

香取慎吾が描く未来──この1年ほど、草彅、稲垣とたくさんの時間、話をしたことはなかった

タレントとして抜群の反射神経を見せる香取慎吾は、画家やアート作家としての才能でも知られる。また、絵を描き、オブジェをつくるいっぽうで、新たにインスタグラムもスタートするという。香取慎吾のポテンシャルが、いよいよ全開になる!? 聞き手・鈴木正文(GQ) 構成・サトータケシ Photos: Maciej Kucia @ AVGVST Styling: Tomoki Sukezane Hair: hiro Tsukui @ Perle Make-up: Yosuke Nakajima
この1年ほど、草彅、稲垣とたくさんの時間、話したことはなかった──僕の仕事はエンターテインメント
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香取慎吾

アーティスト

2016年12月31日の「SMAP」解散、2017年9月8日の稲垣吾郎、草彅 剛、香取慎吾の前SMAPメンバー3人の事務所退所、そして同年9月22日の3人のファンサイト「新しい地図」での再始動、さらには11月早々のインターネット・テレビ・チャンネルでの72時間ぶっ通しの生放送、と2017年は前SMAPメンバーの去就に「国民的」な注目が集まった年であった。

第12回の「GQ MEN OF THE YEAR」は、新しい出発に踏み出したこの3人を「インスピレーション・オブ・ザ・イヤー」(人々をもっとも勇気づけた男たち)として称える。(インタビューは2017年10月某日)

3人の中で、いち早く自身の”新しい地図”の片鱗を示したのが香取慎吾だ。カルティエ ブティック 六本木ヒルズ店のオープンにあたっては、アート作品を発表、日本財団主催のアート展「ミュージアム・オブ・トゥギャザー」にも、2つの作品を出展した。まさに新境地を開きつつある香取慎吾が語る、これまでのこと、これからのこと。

ニューヨークで「コム デ ギャルソン」展を見ました

─ さきほど、急に忙しくなったとおっしゃっていましたが、2017年、自由な時間がわりとあったときはどんな感じで過ごしましたか?

そうですねぇ……、友だちと遊びましたね。あと海外にいっぱい行きました。けっこう(海外には)行くほうなんですけど、最近だとニューヨークのメトロポリタン美術館(MET)に「川久保玲/コム デ ギャルソン」展を見に行きました。

─ それは招待されて、というのではなく?

ええ、そうです。自分でレンタルの自転車を借りて、ホテルからセントラルパークをまわって、そのままMETに行きました。

─ みんな、というか、気づいた人はびっくりしたでしょうね。

いえいえ、ちょいちょい気づいた人もいたみたいでしたけれど。やっぱり、そうやって足を運ぶことで刺激を受けることってたくさんあるので、行ってよかったです。あれはなんていうんだろうな、僕が言うのもおこがましいですけれど、なんか誇らしいというか、日本のコム デ ギャルソンの仕事を海外の人がこんなにたくさん見に来ていてって、やっぱり嬉しかったですね。僕はただのファンにすぎないけれど、ホラ、これが日本の川久保玲さんなんだよ、みたいな気持ちの高ぶりがありました。

─ わかります。そのうち、3人も、世界的に知られる才能になるといいですね。

そうしたらすごいですね。あとはパリのルーヴル美術館やイタリアにも行きました、イタリアはヴェネチアです。ムラーノ島にヴェネチアングラスのシャンデリアを買いに行ったんです。今までだったら年に一度くらいは時間がとれて、さあどこでどうしようって考えてたんですが、2017年は1週間とか2週間も出かけて、帰ってきたと思ったらまた行ったりしてました。

"ありがたすぎて、嬉しすぎて どっかで財布を落としたほうがいいのかな(笑)"

ゼロから行こうぜ!

─ さて、そんなこんなで新しいスタートを切ったわけですが、あらためてご心境は?

じつは、もっとゼロからのスタートになるんじゃないか、と思っていたんですよ。もっとホントに何もないところからのスタートラインかな、と思っていて、ま、それはそうなんですけど。でも、サポートしてくれるクリエイターのみなさんが一緒にいろいろ作ってくれたり、今日の取材にしても、恵まれているな、と感じるところもあります。

─ ということは、かなりシリアスに考えていらしたんですね。

シリアスなときもありました。けれど、基本的には笑顔で、よしゼロから行こうぜ、と思っていました。3人でやるというよりも、ひとりひとり、同じ想いを持った3人が集まったという感じでしたね。そうしたら、僕たちが思っていた以上のパワーでサポートしてもらえて、ありがたすぎて嬉しすぎて、どっかで財布を落としたほうがいいのかな(笑)、みたいな気持ちです。まだゼロなんですけど、真っ白な新しい地図に少しずつ色を足してくださるみなさんにお返ししたいな、という想いがもう芽生えていますね。

─ 同じ想いを持った3人ということですが、ほかのふたりは友人なのか、同僚なのか、兄弟なのか。

僕は基本的にはというか案外というか、仕事仲間だと思っています。仕事仲間で、これから自分たちはどうしようって考えたときに、この人たちと仕事がしたいっていう、そういう3人ですかね。

─ では、香取さんにとっての仕事とは何でしょう?

僕の仕事は……、ううむ、エンターテインメントですね。それこそ、香取は引退するんじゃないかとか、絵だけ描く画家になるんじゃないかとか言われたりもしたんですけど、そう言われて、自分では不思議な気持ちでしたね。画家ってなんだろう、絵を描く人が歌を歌ったら何と呼ぶんだろう、とか考えたりして。今までも歌ったりお芝居をしたりしながら絵も描いてきたんで、その点では変わりはないわけで。エンターテインメントをしていきたいなって思ってます。

─ ということは、香取さんにとっては、絵を描くこともエンターテインメントなのでしょうか?

まったく一緒ですね。絵を描くというのはストレス解消だったり趣味だったりという面もありますけど、やっぱり描いたものは誰かに見てもらいたいですね。見てもらって、いいねと言われたときに、「えー、そう?」と言いながらもちょっと嬉しいというか。それは、ステージで歌ったときにいいねと言われるのと同じです。

絵画、人生、について

─ とはいえ、せっかく新しいスタートを切ったので、この際、画を描くことをもっと掘り下げていきたいというお気持ちはありますか?

とくにそういうふうに考えているわけではないんですけど、絵はホントに好きで、子どものころからずっと描いていて、どこかで発表する機会をうかがっていたんですね。そうしたら出展してくださいなんて言われて、展覧会に行ったらいろんなアーティストの作品のなかに自分の絵が置かれていて(註1)、もうそれだけで嬉しいというか。作家の香取慎吾さんって紹介されて、いやー、作家って超嬉しい、って。

─ 好きな画家はいるんですか?

岡本太郎さんと、あと誰だろう、(ジャン=ミシェル)バスキアとか、でしょうか。絵を専門的に勉強したわけではないので、「この作品は制作時間は何時間ですか?」とか、そんなこと訊かれたことがなかったので面白がってます。あと、画材は何ですかとか、そう訊かれたりもしたんですが、そのへんにあるもので描いているからわからないんです(笑)。ここはアクリル絵の具ですね、ここに油性マジックも入ってますね、とか一緒に探ってもらったり(笑)。

カルティエ ブティックで発表した作品(註2)はかなり大きいものでしたが、制作期間はどのくらいでしたか?

幅が4mくらいある絵なんですけど、1カ月くらいかかりました。あと、シャンデリアのオブジェも作ったんですよ。ムラーノ島へ行ったことがつながっているんですかね。

─ いずれにせよ、香取慎吾の可能性がひろがっているわけですね。

そうですね、ひろがってますね。

─ ウェブサイトの「新しい地図」では、インスタグラマーとしても活動するとも発表されてますが、さて、進捗の度合いはどんなものでしょう?

やりかたもまだわかっていなくて、ポスト(投稿)がゼロなのにフォロワーが34万人とかなんです(笑)。もっとじわじわ始めたいと思っていたんですけど。

─ ソーシャル・メディアで発信することも含めて、今のような状況は、たとえば3年前には想像もつかないことだったと思います。人生、変われば変わるものだ、と考えました?

この1年半、いや2年は、もう、人生、考えましたね。

─ 誰かになにか相談したとかいうことは、ありましたか?

草彅、稲垣とは30年近い付き合いなんですけど、話をした時間は、この1年がこれまでで一番長かったですね。でも、これからどうしようっていう話をしながらも、普段どんな音楽聴いてんの? とか、そんな生活してるんだ!? とか、今まで知らなかったことが一気に押し寄せてきました。

─ お互いを、人間同士として、その全体を理解しようとしたんですね。

これからの話をしていて結論が行き詰まったときに、ふらっとほかの話をしたら、案外そんな話をしたことなかったねって。30年近く一緒にいたけれど、中学生の頃とかは普通に遊んだりとか、20歳になってお酒が飲めるようになってからは一緒に飲んでみたりとかはあったんです。でも30歳代になってからは、何かのタイミングで周りにスタッフがいるなかで年に1回食事をするかどうか、という感じでした。ところがここ最近は、短期間にとんでもない頻度で会うようになって……。そうしたら知らないことがいっぱいで、今クルマ、何乗ってんの? みたいなそんなレベルで。

─ 関係のステージが変わったんですね。関わり合いが深くなった。

ええ、すごくいい感じです。

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ファッションとこれから、について

─ 香取さんと言えばファッションのことも触れないわけにはいきません。最近の興味は?

じつは最近、(スタイリストが用意してくれた服ではなく)私服で出ることが多くて。明日はここでこれだから、という急なときに私服で行くと、僕のクローゼットの中身がいろんなところにどんどん載っちゃうんですよ。だから久々に買い物をしましたね。

─ 最近のお気に入りは?

グッチにはここ何年か、たくさんお金を使っちゃいました。

─ 自分でお店に行くんですか? 表参道に?

自分で行きます。いつも表参道だったんですけど、このあいだ銀座に行ったら、リニューアルしていてとてもきれいでよかったです。あと、シャネルのメンズで僕が着られるサイズがたまにあったりするんです。

─ なるほど。やはり、ファッションにはパッションがありますね。では、香取さんにとって、洋服を着る楽しみとは?

お洒落ですね、って言われて、「えー、そうですか?」って言いたいんですね。「いやいや、そんなことないです」みたいな感じで。あとは強くなれるというか、調子が良くないからこそスーツを着ていくと気持ちがビシッとアガったり、気が張りすぎてるからあえてユル〜い感じで行くとちょうどよくなったり、ということがあります。(ファッションのいいところは)自分の状態を変化させられるところかな。

─ 「新しい地図」のサイトの動画もとても格好いいですよ。

動画にはとても優れたクリエイターのみなさんが参加していて、このなかの人がひとりいるだけでも幸せな現場なのに、そういう人が何人も集まってくれてるんですね。そういう方たちと仕事ができているのが楽しいし、そんなところにも僕たちのこれからの姿がうかがえるのかなって考えてます。格好よく遊べたら最高ですね。

註1:東京・青山のスパイラルガーデンでおこなわれた、日本財団DIVERSITY IN THE ARTS企画展「ミュージアム・オブ・トゥギャザー」(開催終了)に、『イソゲマダマニアウ』(2010年)と『火のトリ』(2014年)を出展した。

註2:カルティエの時計「タンク」の誕生100周年を記念した期間限定ギャラリー「TANK 100」に、同企画のために制作した『時間が足りない:need more time』『百年のfuuu.』を発表。カルティエ ブティック 六本木ヒルズ店に11月26日(日)まで展示される。

SHINGO KATORI
1977年1月31日生まれ。SMAP結成時は11歳で、メンバーで最年少。NHK大河ドラマ『新撰組!』で主演、慎吾ママとして『慎吾ママのおはロック』で大ヒットを飛ばし、ミュージカルへの出演や司会者、DJなどとしても才能を発揮する。近年は絵画など現代アートの作家としても認められ、その快進撃はとどまるところを知らない。