INSPIRATION OF THE YEAR
アーティスト
2016年12月31日の「SMAP」解散、2017年9月8日の稲垣吾郎、草彅 剛、香取慎吾の前SMAPメンバー3人の事務所退所、そして同年9月22日の3人のファンサイト「新しい地図」での再始動、さらには11月早々のインターネット・テレビ・チャンネルでの72時間ぶっ通しの生放送、と2017年は前SMAPメンバーの去就に「国民的」な注目が集まった年であった。
第12回の「GQ MEN OF THE YEAR」は、新しい出発に踏み出したこの3人を「インスピレーション・オブ・ザ・イヤー」(人々をもっとも勇気づけた男たち)として称える。(インタビューは2017年10月某日)
稲垣吾郎は、テレビで見る稲垣吾郎そのものだった。クールで、身のこなしがしなやかで、透き通った不思議な存在感がある。喜怒哀楽を人に見せることは彼の流儀に反するようで、表情や声のトーンは常に静謐だ。けれども、ひとつひとつ丁寧に選んだ言葉からは、青い炎が発しているかのような静かな熱が伝わってきた。独立、ファン、仲間、事務所、そして結婚について。44歳を目前にした稲垣吾郎は、われわれが知りたいことを誠実に語ってくれた。
このままずっと続いていくと思っていた
─ 一種、国民的なスターですよね。だからファンだけじゃなく、みんなにとって今回のことは他人事ではないわけです。
その感じはすごくあります。スタッフだけでもメンバーだけの出来事でもない、そういうコトの大きさというものが改めてわかった気がします。もともとわかっていたつもりなんですけれど、なんとなく流されていたり、忙し過ぎて振り返る時間もあまりなかったりして。でも振り返ることは人生のなかでいつかは必要だと思っていました。12月に44歳になるんですが、44歳って平均寿命からいくと人生半ばですよね。いろいろな想いはありますが、人生半分の時点で再スタートを切ることができたことを前向きにとらえたいですね。
─ 世間の人が43歳の時点で、もちろんアイドルではないけれど、インディペンデントになるというのは重い決断ですよね。家族のあるなしとか、背負っているものの大きさとかはそれぞれ違うだろうけれど。
人と比べることでもないと思いますが、会社員をやって途中から芸能界に入ったわけではなくて、もう中学2年から、13か14歳のときからずっとやってきて、この世界で人格が作られてしまったので、ほかのことがわからないんですね。あたりまえのようにやってきたので。基本的にはほかのことは何もできないと思っているし、このままの感じでやっていくと思っていました。だからみなさんも驚かれたと思うけれど、自分たちもすごく驚いていたんです。
─ 自分たちも驚いたというのに実感がこもっていますね。
でも人生って予測がつかなかったりとかいいますよね。こういうものなのかな、と思ったりしました。
─ 稲垣さんの年齢って、会社勤めをしている人にとってもいろいろある頃ですね。俺はこの程度かなって先が見えたり、このまま10年後も同じことをやってるのかと疑問を覚えたり。もしなにか新しいことに打って出るとしたら、これが最後のチャンスとは言わないけれど、最後に近いチャンスかもしれない、と考えたりもする。そういう意味で、いろんな人が稲垣さんのいまとこれからには注目していると思います。人生を切り替えて再スタートしたことで、いろんな人にインスピレーションを与えたのではないか、と僕たちは考えました。
そうおっしゃっていただけるのはすごく嬉しいです。僕の周りでも、40歳ぐらいから僕らみたいな状況になる人が多いようです。芸能界ではないんですが、いろんな世界で再スタートというものがあるんだなって、改めて思いました。仕事だけじゃなくて、結婚であるとか出産であるとか、性別を問わず人生が変わる機会っていっぱいある。そういうことを経験しつつある人たちに対して、影響というか、勇気というか、何かを与えることができればいいな、と思います。ただ、大切なのはこれからで、今はまだ僕自身、評価に値することを何もしていません。スタートしたことだけで喜んではいられませんからね。
"このスタッフと一生やりたい、それは絶対にありました"
─ 決断するにあたって、だれかに相談しましたか?
スタッフとかメンバーとは話し合って、通じ合っていたつもりです。でもやっぱり決めるのは最後は自分なので。じつは話を聞いてもらいたいとか、甘えたい気持ちがあって相談とかはしましたけれど、決めたのは自分です。自分の道は自分で切り拓いていくしかないので。
─ 相談とはいいつつ、たぶん、答えは最初から自分では知っていたんですよね。
……。うーん、そうですね。もちろん揺れ動く部分も多かったですし。ただやっぱり絶対に捨ててはいけないものというのがあって、それはこの人とやりたいとか、このスタッフと一生やっていきたいとか、そういうことですね。それは絶対にありましたし、そこに尽きると思います。やっぱり、人だと思うので。
─ ほかのふたりのメンバーに対して抱く感情は、友情とか信頼とか、言葉にすると何でしょう?
友情かもしれないし信頼かもしれないし、もちろん愛もありますし、家族みたいに温かいものでもあります。ただ、基本的にはふたりを昔からずっと尊敬しているので、ピリッとした緊張感はあります。そこは馴れ合いにならない、良い関係だと思っています。
─ そう考えると、尊敬しあえるメンバーを集め、育てた事務所というのも、偉大と言えば偉大ですね。
それはそうです。会社があって、ジャニー(喜多川)さんがいらっしゃって、そこから生まれたわれわれなので。生んでくれたことへの感謝の気持ちはずっと変わらないですね。「あぁ、あの時ああしておけばよかった」と思うこともなくはないけれど、こっちを選んだ方がこれからの人生をより理想に近いかたちで進んで行くことができるのかな、自分を肯定して迷わずに行けるのかな、と思いました。ずっと後悔しながら生きていくのも嫌だし、自分で決めたことなら納得できますし、今がいいと思いたいですし、今が未来ですし─。
─ 決断して、発表するまでの間、心の支えになった本とか言葉ってありますか?
誰かに教えてもらったんですけど、アインシュタインの言葉でしたっけ、「人生は自転車のようなもので、漕がないと倒れてしまう」という(註1)。今までは忙しくしてきたので、今年は時間があって生活のリズムが変わりました。やっぱり立ち止まると、意外にバランスをとるのが難しいんだなということは感じました。ただ、新しい道に行くことにしたので、今は一度、自転車を停めてチューンナップしなければいけない時期かな、とそんなことを考えました。
俳優業にはこだわりをもってやっていきたい
─ なるほど。では、”チューンナップ”した稲垣さんがこれから何をやるのか、そのへんについてはどの程度、お考えがまとまってきましたか?
これからのことを立ち止まって考えるための1年だったと思うし、やりたいことはたくさんあります。基本的には、僕はお芝居が好きなので、俳優業にこだわりをもってやっていきたいですね。中学生ぐらいから、歌って踊ってということがひとつ、そうしてもうひとつは演じるということ、このふたつの場所があったという感じでやってきたんですけど、ひとつはシンプルに俳優として、さらにその道を進んで行きたいと思っています。そこは変わりません。年齢に応じて求められるものが変わってくると思いますし、いくつになってもできる仕事ですし、役を与えていただければ、生涯やっていきたいという思いは強いですね。
─ そして、いっぽうでは「新しい地図」というサイト(註2)がオープンしました。これについては、どんなことを考えていますか?
たんなるファンサイトだとかファンクラブのデジタル版だとかいうのではなくて、共感してくださる人たちにとっての一種のコミュニティにしていきたい、と思ってます。ジョインしてくださる方が受け手となるだけではなく、みなさんも発信してくれる、そういう双方向的な場になっていくといいな、と思っています。
─ ブロガーとしてもデビューするそうですね。
そういうの、本当は苦手なんです。でも、『ゴロウ・デラックス』というTBSの番組(註3)で作家の方にゲストに来ていただいているんですが、たとえばこのあいだは『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻さんがゲストで、同世代ですごく盛り上がりました。小説も面白いんですよ。ほかにも西加奈子さんが意外と姉御肌で、朝井リョウ君なんかも集まるお花見に呼んでいただいたり、ということもありました。自分を物書きというのはおこがましいんですが、書くことは興味のある世界なので、まずはブログから始めたいと思っています。
─ ぜひ、『GQ』にも寄稿していただきたいですね。これはのちほどお願いにあがりたいと思っていますので、なにとぞよろしくおねがいします。さて、来春には『クソ野郎と美しき世界』(註4)というタイトルの映画が公開されるということですが、これについてはいまどんな状況でしょうか?
まだ詳しいことをお話しできる段階ではないんですが、新しい3人が見られると思います。
─ いろいろあっていま新しい地図をつくろうということになったわけですが、こうして一定の方向が決まってみると、またいろいろ去来するものがあると思います。別れたくて別れたわけではないけれど、それでも別れたいまだからこそなおさら、というのでしょうか。
それも最近ずっと考えてきたテーマですね。終わりがあり、別れがあり、でもリスタートがある。それはSMAPだけでなく、みなさんもおそらく同じようなことがあるのではないかと思ったりもします。そう考えると、僕は結婚もしていないし、子どももいないし、こういうことになるまでは、ずーっと同じように生きてきたのかもしれないな、とは思ってます。
─ ところで、デートはしていますか?
デートはしています。そこは昔と変わらぬスタンスで、独身なんで(笑)。
─ 唐突ながら、女性から学ぶことって大きいんじゃないかな、と思っているものでついお尋ねしてしまいました。
本当にそう思います。女性は自分の人生にヒントを与えてくれたりとか、女性からはすごく影響を受けていると感じますね。
─ 結婚はどうでしょう?
したほうがいいですか? 燃え殻さんともそういう話になったんですけど、最近、周りでも結婚する人が増えていて。
─ しようと思ったらするものでしょうから、自然に考えるほかないとは思います。
そうなんです。この年齢になったらもったいぶってもしかたないですし。相手がいて、したほうがいいと思ったらそっちを選択するだろうし。だから、今後はわからないです。そこは肯定も否定もしません。
─ 私生活でも新しい地図を描くかもしれない、という着地点でインタビューをまとめるのはどうでしょう。
そこですかね(笑)。
註1:ドイツ生まれのユダヤ人理論物理学者、アルベルト・アインシュタインの名言。『人生とは自転車のようなものだ。倒れないようにするには走らなければならない』。
註2:2017年9月22日に立ち上がった、稲垣吾郎、草彅 剛、香取慎吾の公式ファンサイト。SNSのアカウントも同時に公開され、インスタグラムのフォロワーは30万人を超える。atarashiichizu.com/
註3:2011年4月14日からTBS系列で放送されているトークバラエティ番組。稲垣吾郎がMCを務め、毎週一冊の本をとりあげて著者をゲストに招く。毎週木曜日深夜0:58から放送。
註4:稲垣、草彅、香取が主演、2018年春公開予定の映画『クソ野郎と美しき世界/THE BASTARD AND THE BEAUTIFUL WORLD』。特設サイトkusoyaro.netにて続報を更新予定。
GORO INAGAKI
1973年12月8日生まれ。1988年のSMAP結成時は14歳。翌89年にはNHK連続テレビ小説『青春家族』でドラマにデビュー。以来、アイドルと俳優の二足のわらじを履き続けてきた。三池崇史監督の『十三人の刺客』では暴君の松平斉韶を怪演、多くの舞台も経験した。『an・an』の連載「稲垣吾郎 シネマナビ!」で文才も発揮する。